第16回 アダチUKIYOE大賞 結果発表!

「第16回アダチUKIYOE大賞」は、2025年1月20日に行われた厳正なる審査により、以下のように大賞、優秀賞、佳作の計4名が選出されました。多くの皆様からご応募いただき、ありがとうございました。

【 第16回アダチUKIYOE大賞 結果 】

募集期間 2024年8月27日より2024年12月25日まで
募集内容 応募要項(2024年)のページ参照
応募総数 176点 [居住地]日本(73)、海外(103)

審査委員 小山登美夫(ギャラリスト)

三井田盛一郎(東京藝術大学 美術学部絵画科 教授)
山下裕二(明治学院大学 文学部芸術学科 教授) 敬称略・五十音順

審査方法

開催より第16回目となった今回も、「現代の浮世絵師としての可能性を秘めたアーティストを発掘する」という主旨で、個人が制作した作品をベースにWEBフォームと郵送による募集をおこないました(海外からはWEBフォームによる募集のみ。)

2025年1月20日に開催された審査会において、応募された国内外176名の応募作品を元に、応募者の画風や制作活動の成果、また、伝統木版との相性や現代の浮世絵師としての可能性などを総合的に判断し、大賞・優秀賞・佳作の計4名を選出しました。大賞・優秀賞受賞の2名には、現代の彫師・摺師と共に制作する新たな浮世絵の制作を進めていきます。

受賞者

大 賞 : Kejie Lin

 賞金 30万円+現代の彫師・摺師と共に、描いた版下絵を木版画として制作(完成した木版画を進呈)
優秀賞 : Carmen Ng

 賞金 15万円+現代の彫師・摺師と共に、描いた版下絵を木版画として制作(完成した木版画を進呈)
佳 作 : 野々なずな、荒井かれん

 賞金5万円

 

【 大賞 】 Kejie Lin

 

Tropical Garden 2  ,  Tropical Garden 3

 

Balance
© Kejie Lin

[審査委員のコメント]

カナダ・トロントを拠点に活動する中国出身のLinさん。中国の伝統絵画である工筆画の技法を用いた卓越した技量が高く評価されました。精密な描写、美しい黒の使い方、優れた色彩感覚に加え、江戸時代の浮世絵と同様に輪郭線を描く手法が、浮世絵木版画の制作に適している点も大賞受賞の決め手となりました。中国の工筆画と日本の伝統木版技術の融合によって生まれる副賞作品の完成に期待しています。

 

【 優秀賞 】 Carmen Ng

 

Outside connection I  ,  Outside connection II

 

© Carmen Ng

[審査委員のコメント]

香港を拠点に活動するNgさんの作品は、水彩の透明感や緻密な線、紙の地の色を生かした色彩表現、さらには窓枠越しに眺めるという独自の構図などが高く評価されました。特に、高層ビルを題材とした、生活の実感に基づく等身大の表現は素晴らしく、審査員の目を引きました。日本の浮世絵とその制作技法に深い関心を寄せるNgさんの作品が、新たな浮世絵として完成することを期待しています。

 

【 佳作 】 野々なずな

 

舟屋 1
© Nazuna Nono

[審査委員のコメント]

同大賞の第14回でも佳作を受賞している野々さん。今回の応募に向けて時間をかけて準備されたことが伝わる、綿密な取材に基づいて描かれた作品が評価されました。特に、水とともに描かれた風景は非常に優れていると感じられました。「目で見たものを丁寧に線と色に置き換えていく」真摯な姿勢が素晴らしく、今後もその探求を続けていただきたいと期待しています。

 

【 佳作 】 荒井かれん

 

秋晴れの午後
© Karen Arai

[審査委員のコメント]

現在、美術大学で絵画を学んでいる荒井さんの作品からは、作家本人が服飾史に深い興味を持っていることがうかがえる題材や、油彩という技法を用いながらも、その乾いたような独特のマティエールが審査員の目を引きました。荒井さんの作品にすでに備わっている品格が、今後さらに高まることを期待しています。

 

選考にあたって

[総評]

第16回目を迎えた今年度は、前年度に引き続き、郵送に加えてオンラインでの応募を受け付けました。その結果、国内73件、海外103件(世界36か国)を含む、合計176件の応募がありました。

応募作品は、審査員が作家自身の個性や能力を把握し、絵師としての可能性、さらに木版作品にした際に生まれる魅力と可能性を感じさせるかどうかを基準に審査されました。その結果、大賞・優秀賞ともに海外からの応募者が選出されました。

告知方法については、本財団のホームページやSNS、公募雑誌に加え、国内外の公募サイトを活用しました。今年度は海外からの応募が更に増え、応募者の国籍も多様化し、作品のバラエティも広がりました。また、本大賞のために時間をかけて準備されたクオリティの高い作品が、国内外問わず一定数見られたことも大きな成果でした。

印象的だったのは、海外応募者の一人が「版下絵(ドローイング)を応募できるコンペティションは見たことがなく、大変嬉しかった」と述べていたことです。本大賞が一般的なアートコンペティションとは異なり、「伝統木版においては、クオリティの高い線を描ける絵師の存在が欠かせない」という主旨を正しく理解し、応募に臨む人が増えていることを嬉しく思います。次回も今回同様、オンライン応募を継続し、未来の絵師との出会いの機会としたいと考えています。また、次回の応募者には「絵師の描く線のクオリティ」の重要性を理解し、それを作品に反映していただけることを期待しています。

大賞・優秀賞の受賞者2名には、これから伝統的な木版技法を継承する技術者とともに、記念となる木版作品の制作に参加していただきます。前回の大賞受賞者であるJaime Scholnickさんの作品も、アーティストと技術者のコラボレーションによって素晴らしい木版作品として完成しました。今回の受賞者の作品も、新たな発見の場となるよう尽力してまいります。そして、完成した作品を多くの方にご覧いただき、日本が誇るこの技術を広く知っていただく機会となることを期待しています。