定期実演会レポート~歌川国芳「いかだのり」(金魚づくし)~

財団主催イベント

6月11日、今年度二回目となる財団主催の定期実演会が目白にある常設展示場で行われました。雨がぱらつく中の開催となりましたが、会場は満員御礼!30名超の方々にご参加いただくことができました。

摺り道具の要、馬連をご紹介

今回は、実演前に理事長の安達より摺りで使う大事な道具のひとつである“馬連(ばれん)”について少しお話させていただきました。馬連は職人にとって、摺りの出来を左右する重要な道具。竹の皮に包まれた馴染のかたちをしていますが、皆さんが学校で使ったことのあるものとは異なり、プロの馬連は、竹の皮を割いたものを撚って縄状にして作られる「芯」が内側に入っています。縄の結び目には凸凹があり、摺る際の力加減に影響を与えるため、摺師は凸凹の大きさや減り方に常に目を配っているのです。そして、「芯」を巻き直すことを繰り返しては、均一に縄がなるように手入れをしていきます。長い年月をかけて、自分に合ったもの、自分に合った使い方を模索していくのです。「道具の手入れがしっかりできてから職人は一人前になれる」そんな安達の解説に耳を傾けながら、皆さん手に取った馬連の感触を興味深く確かめられていました。

「いかだのり」摺り実演、ご披露!

そしていよいよ摺師・京増が登場すると会場の熱気も更に高まり、いよいよ実演スタートです!今回の作品は歌川国芳「いかだのり」。金魚や蛙を擬人化した“金魚づくし”シリーズの一図で、爽やかな色合いが暑い夏にぴったりの、可愛くユーモラスな作品です。

京増が、絵の具をのせた版木に和紙を置き、馬連に力をのせて摺っていくと、皆さんその一挙手一投足を見逃すまいと、身を乗り出しながらご覧になっていました。また実演中、作業工程や素材についてなど沢山のご質問をいただき、それに安達がお答えするにつれ、活気は増すばかりでした。特に、浮世絵が商業印刷であるがゆえの版木枚数の制約について話が及び、通常浮世絵は5枚程度の版木で摺られること、今回の「いかだのり」については4枚であることの解説があると、驚きの声があがっていました。

ちなみに、「いかだのり」が通常より少なく版木4枚なのは、子供を対象とした「おもちゃ絵」と呼ばれるジャンルの作品で、低コストで安く庶民に買ってもらえるための工夫だったとも言えます。そんな江戸の出版事情までもが、版木の枚数から読み取れるのも制作の現場がのぞける実演ならではのことですね。

実演後は、皆さん摺りたての作品を手にとり、和紙の感触や摺りこまれた色を間近でじっくりご覧になって浮世絵を五感で楽しんでいただけたようです!この実演会をきっかけに、浮世絵そのものだけでなく、それを生み出す伝統木版技術にも興味を持っていただければ嬉しいです。次回は7月9日を予定しています。

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