令和2年度賛助会員向け進呈作品
洵さんインタビュー(第10回アダチUKIYOE大賞 大賞) Part2

UKIYOE大賞
PART2 制作編 前回のインタビュー(Part1)では、洵さんのアダチUKIYOE大賞ご応募のきっかけから受賞までについてご紹介させていただきました。今回Part2では、木版画「春高楼の花の宴」の制作についてご紹介してまいります。
洵さんが応募の際に提出したポートフォリオの中に描かれていた風景画が、新版画の絵師・川瀬巴水(はすい)を思い起こさせるような柔らかく抒情性にあふれる素敵な作品であったことから、財団では、「今」を描いた洵さんらしい風景画をというリクエストをさせていただきました。今回、洵さんが新たに木版画のために描いてくださったのは、ご自身が生まれ育った福島県会津にある「鶴ヶ城」の桜満開の風景でした。
洵さんのポートフォリオから
完成図
満開の桜の枝間に望む鶴ヶ城
今回、木版画として魅力ある作品に仕上げるために制作の上で、一番注力したのが桜の花びらの表現でした。まず、今回制作を担当した彫師の長谷川と摺師の鈴木に話を聞いてみました。

Q. 今回、特に桜の表現に苦労したようですが、洵さんの作品を彫ってどうでしたか?
A. 彫師 長谷川
今回、満開に咲く桜を立体的に表現するために、桜の花びらのために3面の色板を用意したのですが、この花びらをとても丁寧に彫りました。 また、通常伝統木版では、地墨(じずみ)といってアウトラインを彫った板(主版)を基本として、そこに色の板を合わせていくのですが、今回は、桜の色板一枚にも地墨の役割を持たせるように工夫しています(二辺地墨)。摺る際に、桜の部分の色板を何回も摺り重ねて、ぼかしたりしてもずれにくくするためです。3面の花びらの板のうち、中間の濃さのピンクの板のところです。
アウトラインを彫る様子 (摺師:長谷川博美)
A. 摺師 鈴木
彫師が用意してくれた3面の桜の板をどう摺れば満開の桜が立体的に見えるか、ピンク色の濃淡のバランスをどうとるかに苦労しました。 最初、浮世絵を摺る時のように、きっちりと和紙の繊維の中に絵具を馬連で摺り込んでみたのですが、平面的になって桜の柔らかさが出ませんでした。そこで、桜の部分は、新版画に見られるような「ざら摺」を試してみたところ、立体的に見えるようになりました。空の部分をきっちりと平面に摺ることで質感の違いを出せればと思い、摺りました。その他にも、桜については、部分的にぼかしを何カ所かに入れることで表情がでるように工夫しています。
アウトラインを摺る様子 (摺師:鈴木茉莉奈)
   桜の花びら(中間の濃さ)の版木
摺り重った様子

続いて、受賞者の洵さんにお話をうかがいました。

Q. 洵さん、今回、完成した木版画をご覧になって、いかがでしたでしょうか?
私の作品が浮世絵になったという感動と嬉しさでいっぱいでした。デジタルツールで描いた作品がこれほどまでに細部まで忠実に再現できる木版画技術の高さに尊敬の念を禁じ得ません。これが世界に誇る日本の伝統技術なのだと、改めてその素晴らしさを認識しました。そして、その技術を今後も受け継ぎ発展させていくことに、今回自分が携わることができて大変光栄に思います。コロナ禍の大変な中、制作にご尽力くださったアダチ版画の皆様には、心から感謝申し上げます。 さらに、洵さんから今回の作品制作を通して、彫、摺、そしてディレクションについて個々にコメントをいただきました。
●彫について 桜の花びらの彫に、とても時間を費やしたと伺っています。大変恐縮です…。パソコンにて制作しているので、デジタル特有の表現などもあったかと思いますが、それをここまで忠実に再現できる高度な技術にただただ驚愕するばかりです。
●摺について デジタルイラストでは、レイヤーと呼ばれる透明なキャンバスを何枚も重ねて1枚の絵を完成させます。作家や描き方によって様々ですが、私の場合、線画や部位ごと、色ごとにレイヤーを分けて制作しています。何色もの版を摺り重ねて完成させる浮世絵木版画は、こういった点でもデジタルイラストと共通するものがあるのではないかと感じて、大変興味深く思っています。
●ディレクションについて 構図の微調整などでアドバイスもいただきながら、完成作品の方向性を決めていきました。 普段描いている人物画ではなく風景画に挑戦しましたが、風景画では川瀬巴水や吉田博などの新版画に大いに影響を受けているとお話したところ、川瀬巴水の画集を見せていただきながら打ち合わせをさせていただき、大変参考になりました。
Q. 今後の活動の中で木版という表現方法についてどう考えていますか?
今回の木版画制作という大変貴重な機会をいただき、とても多くの刺激を受けました。浮世絵木版画の独特な表現方法を今後のデジタル制作に活かして、表現の幅を広げていきたいと思っています。何より、日本にこのような高度な伝統技術があることをもっと多くの方々に知っていただき、興味を持っていただきたいです。画業を営む者の末端ながら、私自身今後もアダチ版画さんの活動に少しでも貢献できたらと思っています。


今回、絵師となっていただいた洵さんの故郷、会津若松の鶴ヶ城の春の風景が木版画として完成いたしました。デジタルで描いたとは思えない洵さんの繊細な線がベースとなり、幾重にも重なる桜の花びらが画面全体を包み込んでくれる素敵な作品となりました。彫師と摺師の工夫も相まって、満開に咲き誇る桜が柔らく、そして、晴れ渡る空は鮮やかに木版らしい表現ができたのではないかと思っております。2021年の春は、是非、洵さんの「春高楼の花の宴」でお花見気分を満喫してみてはいかがでしょうか。

洵さんの木版画「春高楼の花の宴」は、当財団の賛助会員(年会費2万円)にお申し込みいただいた方に、進呈させていただいております。>>賛助会員のご案内


洵 略歴
福島県会津生まれ・在住のイラストレーター。日本画のような和風な雰囲気や、どこかノスタルジーを感じるような絵を中心に制作している。全てパソコンを使ってのデジタル作画で、効率性や表現の幅広さなどのデジタル制作の良さを活かしつつ、手描きの柔らかさや日本画独自の質感や風情を表せるような作品を目指している。 主に着物・日本髪など日本文化に関係するものや時代物、歴史系の絵を得意とし、月刊文芸誌の小説挿絵、児童書・歴史学習書籍の説明イラストなど書籍の仕事を中心に、電子書籍の扉絵、パンフレットや学習テキストのカットイラストなど幅広く活動中。 >>洵さんWEBサイト
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