令和2年度賛助会員向け進呈作品
長友由紀さんインタビュー(第10回アダチUKIYOE大賞 優秀賞) Part2
UKIYOE大賞
PART2 制作編
前回のインタビュー(Part1)では、長友さんのアダチUKIYOE大賞のご応募のきっかけから受賞までについてご紹介させていただきました。今回Part2では、木版画「東京駅地中図絵」の制作についてご紹介してまいります。
長友さんの作品は、友禅染ならではの色鮮やかさ、そして画題のユニークさが高く評価され、受賞につながりました。財団としては、染織作品をもとに木版画を制作するという新たな試みによって、今までにはない面白い作品が生まれるのでないかという思いから、ポートフォリオから作品を選ばせていただき、長友さんに再構成していただきました。
前回のインタビュー(Part1)では、長友さんのアダチUKIYOE大賞のご応募のきっかけから受賞までについてご紹介させていただきました。今回Part2では、木版画「東京駅地中図絵」の制作についてご紹介してまいります。
長友さんの作品は、友禅染ならではの色鮮やかさ、そして画題のユニークさが高く評価され、受賞につながりました。財団としては、染織作品をもとに木版画を制作するという新たな試みによって、今までにはない面白い作品が生まれるのでないかという思いから、ポートフォリオから作品を選ばせていただき、長友さんに再構成していただきました。
「東京駅地中図絵」の元となった作品は、山手線の駅の景色を模様にした「東京ひいながたシリーズ」のうちの東京駅を描いた作品「東京ひいながた – 東京 – 」。
「ひな形本」と呼ばれる江戸時代の着物の模様帖を発想にした作品で着物を型取った枠の中に東京駅のロータリー、そして地下の様子を細かく描いた作品です。
「ひな形本」と呼ばれる江戸時代の着物の模様帖を発想にした作品で着物を型取った枠の中に東京駅のロータリー、そして地下の様子を細かく描いた作品です。
「東京ひいながたシリーズ」から
「東京ひいながた – 東京 -」
「東京ひいながた – 東京 -」
Q. 普段は、同じ図柄を何度も描くことはされないようですが、木版画作品のため再構成する過程はいかがでしたか?
A. 長友さん:この作品は、私自身、構図も明快に描けたものとして気に入っていたので、改めて違う画面で再構成することにためらいはなかったです。今回は、大和絵で描かれる「すやり霞」のような紫色の雲を配することで景色を俯瞰する視点を強調しました。配色を変えることでまた友禅染の作品とは異なる雰囲気に仕上げました。
A. 長友さん:この作品は、私自身、構図も明快に描けたものとして気に入っていたので、改めて違う画面で再構成することにためらいはなかったです。今回は、大和絵で描かれる「すやり霞」のような紫色の雲を配することで景色を俯瞰する視点を強調しました。配色を変えることでまた友禅染の作品とは異なる雰囲気に仕上げました。
「東京駅地中図絵」の原稿
そして、現代の浮世絵というに相応わしい木版画のための原稿が完成しました。
この原稿をもとに、木版として制作する際にどのような工夫がされたのか。彫と摺、それぞれに見ていきましょう。
この原稿をもとに、木版として制作する際にどのような工夫がされたのか。彫と摺、それぞれに見ていきましょう。
<彫>
通常、浮世絵版画の場合は、黒い輪郭線(地墨)が基本となり、線の内側に各色をずれずに摺り重ねることによって多色摺の木版画となるのですが、いただいた作品の原稿は、よく見ると白抜きの線となっています。
長友さんによると友禅染では、この色と色の間にある白い輪郭線が中心となって、色つけがされていくそうです。
色と色との境界を示す線という点においては同じですが、黒と白とでは、制作においては、勝手が違います。線の部分の彫を担当した彫師の岸に話を聞いてみました。
通常、浮世絵版画の場合は、黒い輪郭線(地墨)が基本となり、線の内側に各色をずれずに摺り重ねることによって多色摺の木版画となるのですが、いただいた作品の原稿は、よく見ると白抜きの線となっています。
長友さんによると友禅染では、この色と色の間にある白い輪郭線が中心となって、色つけがされていくそうです。
色と色との境界を示す線という点においては同じですが、黒と白とでは、制作においては、勝手が違います。線の部分の彫を担当した彫師の岸に話を聞いてみました。
Q. 今回の作品の場合、白い線が特徴的でしたが、版づくりで工夫したところはどこですか?
A. 彫師 岸
今回は、線の部分が白抜きになっていたので色の板だけで構成することもできなくはないのですが、やはり、通常の墨線のように基準となる線がないと、色を摺重ねていく際に、摺師が苦労するため、白い線の部分をアウトラインとして彫りました。
今回は、見えないくらいの薄いグレーで摺ってもらったので、周りの部分に鮮やかな色が入ることで、白い線が綺麗に出せたのではないでしょうか。また、真っ直ぐではない長友さんの線に魅力を感じたので、硬くなりすぎないように彫りました。
A. 彫師 岸
今回は、線の部分が白抜きになっていたので色の板だけで構成することもできなくはないのですが、やはり、通常の墨線のように基準となる線がないと、色を摺重ねていく際に、摺師が苦労するため、白い線の部分をアウトラインとして彫りました。
今回は、見えないくらいの薄いグレーで摺ってもらったので、周りの部分に鮮やかな色が入ることで、白い線が綺麗に出せたのではないでしょうか。また、真っ直ぐではない長友さんの線に魅力を感じたので、硬くなりすぎないように彫りました。
アウトラインの部分の版木
薄い墨で摺った輪郭線
<摺>
そして、長友さんが木版画のため原稿を作るときに意識してくださった色を和紙と水性の絵の具という木版独特の素材でどのように再現できるかが摺の工程では課題でした。
Q. 実際に作品を摺った長沼さんは、どうでしたか?
A. 摺師 長沼
染物特有の色合いや鮮やかさが長友さんの作品の魅力の一つだと思いましたので、木版でも綺麗な色に摺りあがるように、絵の具の調合に気をつけました。地上と地下との違いが出るように、地下の水色の部分は、若干くすませて摺りました。校正をあげた際に、ちょっとした色のバランスが取れず悩んでいたのですが、長友さんに的確な色の指示をいただいて修正したところ、絵が立体的になり、作品としてグッと引き締まりました。プロの方の絵づくりを勉強させていただく貴重な機会になりました。
そして、長友さんが木版画のため原稿を作るときに意識してくださった色を和紙と水性の絵の具という木版独特の素材でどのように再現できるかが摺の工程では課題でした。
Q. 実際に作品を摺った長沼さんは、どうでしたか?
A. 摺師 長沼
染物特有の色合いや鮮やかさが長友さんの作品の魅力の一つだと思いましたので、木版でも綺麗な色に摺りあがるように、絵の具の調合に気をつけました。地上と地下との違いが出るように、地下の水色の部分は、若干くすませて摺りました。校正をあげた際に、ちょっとした色のバランスが取れず悩んでいたのですが、長友さんに的確な色の指示をいただいて修正したところ、絵が立体的になり、作品としてグッと引き締まりました。プロの方の絵づくりを勉強させていただく貴重な機会になりました。
摺りの様子(摺師:長沼翔太)
そして、上下にある紫の濃いぼかしの部分を摺るときは、緊張しました。特にぼかしの幅には気をつけて太すぎず、細すぎず、原稿に合わせて仕上がるように集中して摺りました。
印象的な紫のぼかし
財団の昨年度の研修生として摺りの修行を始めた長沼ですが、日々の仕事の中で技を磨き、今回の作品の摺りを担当できるまでに成長しています。長友さんとのコラボレーションで色々と学ぶ機会も多かったようです。
Q. 長友さんは、実際に摺りあがった作品をご覧になっていかがでしたか?
絹の艶を感じる染織の色とは違って、木版で摺ったものは、色がしっかりしているという印象です。よりポップな感じが強調された作品になったと思います。コロナ禍での制作だったため、彫や摺の工程を直接拝見することは叶いませんでしたが、遠隔で何度か打合せや修正をお願いし、完成を迎えることができたのも財団の方々のお陰で、心から感謝しております。
長友さんは、友禅染という江戸時代の技法を使っていますが、常に今を生きる私たちにとって、親しみやすい身近なものを題材にしています。今回の作品は、車や人々が行き交う賑わいのある地上の風景と地下に広がっていく東京駅のいまの姿をとても軽妙に描いていて、まさに現代の名所絵と言えます。そして、彫師、摺師とのコラボレーションにより、長友さんが木版画に期待してくださった「現代の人々のくらしを彩る」素敵な作品に仕上がったのではないでしょうか。
完成した木版画作品 長友由紀「東京駅地中図絵」
長友由紀さんの木版画「東京駅地中図絵」は、当財団の賛助会員(年会費2万円)にお申し込みいただいた方に、進呈させていただいております。>>賛助会員のご案内
<インフォメーション>
長友由紀さんが出品される展覧会が3月18日から南青山(東京)のギャラリーで開催されます。
3人展「日々の空想」
澤田万里子(鋳金)、長友由紀(染色)、山田賀代(陶芸)による三人展。
期間:3月18日(木)〜 3月28日(日)※(月)(火)(水)は休廊※
13:00〜19:00(最終日のみ17:00まで)
場所:art space morgenrot(〒107-0041東京都港区南青山3-4-7 第7SYビル1F)
詳細は https://morgenrotarts.com/access.html
長友由紀さんが出品される展覧会が3月18日から南青山(東京)のギャラリーで開催されます。
3人展「日々の空想」
澤田万里子(鋳金)、長友由紀(染色)、山田賀代(陶芸)による三人展。
期間:3月18日(木)〜 3月28日(日)※(月)(火)(水)は休廊※
13:00〜19:00(最終日のみ17:00まで)
場所:art space morgenrot(〒107-0041東京都港区南青山3-4-7 第7SYビル1F)
詳細は https://morgenrotarts.com/access.html
長友由紀 略歴
1991年 神奈川県生まれ
2014年 東京藝術大学 美術学部工芸科染織専攻 卒業
2015年 グラスゴー美術大学
コミュニケーションデザイン科 交換留学
2017年 東京藝術大学 美術研究科工芸専攻染織領域 修了
2019年 金沢卯辰山工芸工房 修了
<個展>
2017年 「海のざわめき」ギャラリーU,東京
「深海」ギャラリー澄光,東京
2018年 「紋様狂詩曲」Shonandai Gallery,東京
「東京模様」アートモール,東京
2014年 東京藝術大学 美術学部工芸科染織専攻 卒業
2015年 グラスゴー美術大学
コミュニケーションデザイン科 交換留学
2017年 東京藝術大学 美術研究科工芸専攻染織領域 修了
2019年 金沢卯辰山工芸工房 修了
<個展>
2017年 「海のざわめき」ギャラリーU,東京
「深海」ギャラリー澄光,東京
2018年 「紋様狂詩曲」Shonandai Gallery,東京
「東京模様」アートモール,東京